暗夜行路

美空ひばり

都はるみ


 曲は異なるが双方とも歌い手の持ち味が出て素晴らしいです。なお、この二つの曲、志賀直哉の小説「暗夜行路」をイメージして作られたかどうかは分からないが、この小説の中で、謙作が大山の地に立ったときの大自然の描写は、志賀がこの作品を書く数十年前に大山を訪れた時の記憶だけで書いたと言われ、日本文学史上白眉とされる。(ウィキペディア)

「中の海の彼方から海へ突出した連山の頂きが色づくと、美保の関の白い灯台も陽を受け、はっきりと浮び出した。間もなく、中の海の大根島にも陽が当たり、それが(赤魚覃)の伏せたように平たく、大きく見えた。村々の電燈は消え、その代わりに白い烟が所々に見え始めた。然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より却って暗く、沈んでいた。謙作は不図、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上がって来ると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、それは停止する事なく、恰度地引網のように手繰られて来た。地を嘗めて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、その儘、平地に眺められるのを希有の事とし、それから謙作は或る感動を受けた。」

なお、僕は、毎年、元旦に、近くの小高い山の中腹に祀られている村の鎮守様に参拝する。そこから眺める日の出前の村の光景は謙作が目にした光景と全然違うが、謙作と同じく心が洗われるような気持になり、新年を迎えるに相応しい感動を覚えるのだ。あと、1ヶ月で最後の平成を迎える。天候に恵まれれば、またその光景に出逢える。

挿入曲は「アランフェス協奏曲」より第2楽章adagio / ホアキン・ロドリーゴ