News Letter

INTRODUCTION今週起きたこと
ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始した翌日の2月25日、ヨーロッパ諸国と米国は、それまで彼らが毎日していたのと同じように、侵略者であるロシアに、天然ガスと引き換えに約7億ドル(約800億円)を支払いました。世界経済は、ヨーロッパのガスの4割を占めるロシアからの供給を簡単に止めることはできないのです。欧米の経済制裁は、最終的にはロシアのエネルギー企業に影響を与えることになり、たとえそれが正当な制裁であったとしても、必ずや電気代やガソリン代の値上げにつながるでしょう。 ロシアが供給する化石燃料に取って代わり、ウラジーミル・プーチン大統領にとって最も重要な影響力と収入を断ち切ることのできる有効な選択肢は、いまのところありません。しかし、この危機は、ヨーロッパが再生可能エネルギーの導入を加速させるきっかけになるかもしれません。ブルームバーグ・インテリジェンス(Bloomberg Intelligence)のシニア・エネルギー・アナリスト、Rob Barnettは、「ロシアからのガスに代わるものを手に入れる最も速い手段は、新しい風力発電と太陽光発電を建設することだ」と言います。 これまでのところ、ロシアのガス輸出量にウクライナ侵攻の影響は見られません。ロシアの銀行を対象にした制裁を策定するにあたって、米国当局は世界経済への打撃をやわらげるため、エネルギー関連取引の適用除外を念入りに設定しました。しかし、制裁措置とウクライナを通過するパイプラインの物理的リスクとの間で、JPモルガン(JPMorgan)のアナリストは、すでに1バレル当たり約10ドル上昇している原油価格は、今四半期中に少なくともさらに10ドル上昇すると予測しています。 原油価格の上昇は掘削量の増加を意味しており、米国の生産者はすでにヨーロッパの救済に乗り出すべく準備を進めています。しかし、EUは来週、新しいエネルギー安全保障戦略を発表する予定です。この戦略では、ヨーロッパの「戦略的自立」を高める手段として、安価なコストで素早く施設を建設できる再生可能エネルギーに焦点を当てるとみられます。ヨーロッパの主要な再生可能エネルギー企業の株価は、ロシアがウクライナへ侵攻した日に急騰しました。 ロシアが工業用金属や水素の主要輸出国であることを考えると、たとえ低炭素経済を実現したとしても、最終的にロシアとの関係を断つのは難しいでしょう。しかし、気候変動はもとより、エネルギー市場の混乱に対するヨーロッパの最善の防御策は、化石燃料の役割を縮小することです。
THE BACKSTORY裏側で起きていること
ヨーロッパではすでにガスが頭痛の種だった。液化天然ガス(LNG)の限られた出荷量をめぐるアジアとの競争、パンデミックによる掘削投資の不足など、さまざまな要因が重なったことで、ウクライナ侵攻のずっと前から、ヨーロッパのガス価格は高騰していました。プーチンはこの弱点を突いて、自らの脅威に最大限の影響力を与えることに成功したのです。 天然ガスは儲かるようになっている。米国からヨーロッパへのLNG出荷量は過去最高を記録しており、石油とガスの価格が目もくらむような高値に達すれば、米国の原油・天然ガス掘削企業は大きな収入を得ることになります。 ロシアはクリーンエネルギーも支配したい。ロシアは、2030年までに、水素の世界市場の5分の1を掌握することを目標としています。水素は、大量輸送や製造業において、低炭素またはゼロ・カーボンを実現するために、化石燃料に代わるエネルギーとなる可能性があります。その多くは、現在、天然ガスを運んでいるパイプラインを利用して、ヨーロッパの工場に輸出される予定です。
WHAT TO WATCH FOR NEXTこれから起きること制裁の効果は。
米国、EU、英国などはロシア財政を圧迫しようと制裁措置をとりましたが、それによってプーチンが戦略を再考するかどうか判断するには時期尚早です。中国の支援があれば、ロシアは他の方法で資金を調達することができます。 移住が増える。何千もの人びとがウクライナを離れています。隣国でEUに加盟するポーランドを最初の目的地として選ぶケースが多いものの、ポーランドは難民に対して不寛容な国でもあります。一方、ナイジェリアやインドなどから来た数千人もの学生たちも、ウクライナからの避難を待っています。 テクノロジーへの影響。ロシアは世界のサプライチェーンを混乱させる可能性のあるサイバー攻撃に関与しており、ロシア人は自国のインターネットが遮断される事態にも備えています。EUはまた、今回の制裁はロシアの機密技術へのアクセスを制限することが目的の一つだとしています。

どちらの側につくか。
西側諸国は断固としてウクライナを支持しており、中国はロシアを支持、アフリカの多くの国は沈黙し、インドは最善の状況を望んでいます。この紛争はヨーロッパ以外の地域にも経済的、政治的な影響を及ぼしており、各国の対応が日々変化していることは、特に驚くことではありません。

チェルノブイリ。
史上最悪の原発事故が起き、依然として非常に有害で、危険な物質が残されている場所の周辺で重火器による戦闘を行うことは、誰にとっても最も避けたい事態です。しかし、まさにそれが起きてしまったのです。

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